第11章 築堤に関する諸説(乙の説)
(乙の説は)・・・開拓面積現状派
築堤は必らず旧堤防跡に限るとした理由は、堤防の地盤は既に十分固結しているし土石も幾分は残存
している。
そして、その地質は元来砂質であり、毛利氏の築堤は小砂利、または 砂等を用いてるため粗朶を用
いる必要もなく人造石工事には適合した場所である。
甲の説である区域の切捨や異動となれば、土砂や石材を再び他に移送しなければならないが、土砂や
石材を移すことになれば必らず干潮に合わせて船を据えて土砂等を積載するしか方法は無く、その工事
にかかる費用と新たに土砂や石材の購い求めが必要となる。
反対者の甲の説が言うように区域を縮小して築堤するなら、巨額の金を投じてこの新田を買取った意
味がない。
原形のまま築堤すれば従来の土砂や石材が有効に使え非常に経済的である。
また堤防が衝擣に耐えるか否かは築堤の巧みさであり、堤防の位置が悪い原因だと恐れる必要は無い。
大手堤防を300間分を内陸内に移動したとしても格別波浪の衝擣を避けられるわけでもなく、300間、
また300間と撤退し遂には新田の地面を無くしてしまうようでは、むしろ初めから新田事業に着手しな
い方がよい。
甲の説の反対者が主張する第3号の一部切捨てと第5号の全部放棄に従へば、300余町歩の大新田を失
い極めて不経済である。
そして反対者が田面が低くて、たまり水が常に絶えないというが、現在は養魚税が多額に入っている
が数年の後になれば塩分が完全に消滅するので全区域が良田となる。
300余町歩を棄てて節約できる費用と300余町歩を残しで得た利益対照すれば300余町歩の収入をもっ
て築堤に増資して、この新田を原形のまま保存し永く国利国益を計ることは当然のやり方である。
さらに人造石の排斥論は真に価値の無い偏見で、その例とされた横浜築港は「コンクリート」を使用
していて人造石とは全く性質が異なっているので、例とする価値が無い、また高浜新田は人造石の改善
前の発明当初の試験中の物であったため、これも例とはならない。
人造石がいかに偉業を果たしつつあるかは、常に猛浪激波が絶えない佐渡港の工事に関する御料局の
証明や、厳しい寒気にさらされている但州の生野銀山の水溜工事に関する同局の証明、及び広島県の宇
品港等における実況にて明らかである。
しかも当地方は気候温和にて波涛も北海に比べれば大変穏やかであり、人造石の制作に必要な石材は
5~6里の近にあり、その種土も三里以内の海辺にあり、石灰セメント等も二里内外の地で大量に製造さ
れつつあって、この地こそ人造石を使用するに絶好の場所である。
なお、諸方の土木師等数十人が議論に参加したが、意見の大体が採用に値しないので記載を割愛した。