『家憲第二』は、事業を守るのは創業の苦労に勝る。
既に始めがあり、順調に終わりまで全うする。
前に述べたように氏は実に中興の祖として、あらゆる創業難をなめたといえ、事業を守るのは、創業の苦労よりも負担が大きい事を知った。
自ら苦労して悩むことを経験すれば怠け心が生じ、事業を守ることを怠れば創業の功績に見劣ってしまう。 この心境を会得した氏は子孫に戒めるのに当たり、事業を守る難しさと、その必要性を肝に銘じて、決して新事業に手を染めるなと教えた。
思うに氏の創造した大事業は、子孫が継承して自家の事業だけでも手に余るので、いたずらに新事業を起こすのは失敗の元である。
『家憲第三』は、事に臨んでは全てを熟慮すべき、しかし一たび着手すれば、満身の勇気を鼓舞して決断断交せよ。
氏の経営する神野新田は、数度の天災に荒廃した事業を継承して、氏の自信の力で完成したものである。
その初めに当たっては、諸説が紛糾し、開拓事業として望みが無いと言われ、真央の失敗を繰り返す恐れがあるなど、諭す者がほとんどであった。
氏は断然これを退け、自ら視察した経験を通し、実地の調査によって得た革新を持ち、遂に現在の新田を作り上げた。
この家憲こそ、氏が成功の骨子であり、また実に社会の良き教訓である。